病院での治療は終わっても、それでも、口を動かすと目が閉じてしまう。
食事のときに、なぜか涙が出る。
じっとしていても、顔の片側がつっぱっている。
これらは、顔面神経麻痺(ベル麻痺やラムゼイ・ハント症候群などの末梢性の麻痺)のあとに残る「後遺症」として知られている症状です。
▶ 発症してまもない方は、こちら(図解:急性期のリハビリ・ストレッチ)
後遺症とは、どういう状態?
病的共同運動(びょうてききょうどううんどう)
- 口を動かすと、目が一緒に閉じてしまう
- 目を閉じると、口角が上がってしまう
- 食事のときに、目が細くなる
動かしたい場所とは別のところが、意図せず動いてしまう状態です。
顔面拘縮(がんめんこうしゅく)
じっとしていても、顔の片側がこわばっている状態です。
麻痺した側のほうれい線が、反対側より深くなることがあります。「顔がつっぱる」「引きつる」という言い方をされることもあります。
ワニの涙(味覚性流涙)
食事をしているときに、麻痺した側の目から涙が出る状態です。後遺症のひとつとして知られています。
そのほか
- 顔の左右差(眉の高さ、目の大きさ)
- まばたきがしにくい
- 話しづらさ、滑舌の低下
- 食べ物がこぼれる
なぜ、後遺症が起きる?
顔面神経がダメージを受けると、神経は時間をかけて再生していきます。
ところがこの再生のときに、本来つながるはずの筋肉とは違うところへ、枝が伸びてしまうことがあります。これを過誤支配(かごしはい)といいます。
口の筋肉へ向かうはずだった枝が、目の筋肉にもつながる。すると、口を動かす命令が目にも届いて、目が閉じてしまう。これが病的共同運動の、主な原因と考えられています。
ワニの涙も、神経が別のところへつながるという点では同じです。ただしこちらは、運動の神経ではなく、唾液を出すようはたらく神経が涙腺のほうへつながって起こると考えられています。
顔面拘縮は、麻痺した筋肉に持続的な緊張が生じることで起こるとされています。
後遺症は、神経が再生する過程で起きたことです。
後遺症の時期に、避けたほうがよいとされていること
後遺症に対して、「もっと動かして鍛えたほうがいいのでは」と考えるのは、自然なことだと思います。ただ、この時期については逆のことが言われています。
大きく動かす練習、強い筋力トレーニング
「イー」と大きく口を開く。思い切り目をつぶる。こうした練習をくり返すと、病的共同運動が強くなることがあるとされています。
顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版でも、この時期に無理な粗大運動を行わないことが示されています。
低周波治療器
顔に電気をあてる機器も、この時期には避けたほうがよいとされています。共同運動や拘縮を強める要因になり得るためです。
強く揉むマッサージ
こわばりを取ろうとして力任せに揉むと、かえって筋肉が硬くなることがあります。
動かすこと自体は問題になりません。強くなりやすいのは、大きく・強く動かしたときです。
この時期に向くのは、強すぎない刺激で、こわばりをゆるめ、動きを整えていくやり方だと当院では考えています。
※医療機関でリハビリや電気刺激の指導を受けている場合は、そちらが優先です。
医療機関で相談できること
ボツリヌス毒素注射
病的共同運動や拘縮に対して、筋肉の過剰な動きをやわらげる目的で行われることがあります。耳鼻咽喉科や形成外科で扱っています。
適応や保険の扱い、効果の持続期間は、医療機関や症状によって異なります。
ミラーバイオフィードバック療法
鏡を見ながら、共同運動が出ない範囲の小さな動きで練習していく方法です。大きく動かさないことが要点になります。
医療機関のリハビリテーション部門で指導を受けられる場合があります。
手術という選択肢
形成外科などで、手術的な方法が検討されることもあります。
自宅でできること
鏡を使って、小さく動かす
鏡の前で、ゆっくり、小さく口角を上げてみる。
目が動き始めたら、そこで止めるのが目安とされています。目が動かない範囲が、いまの練習の幅です。
その幅を少しずつ広げていくのが、この時期の練習になります。
冷やさない
麻痺した側は冷えを感じやすい、という方によくお会いします。私の経験上も、冷やさないほうが顔のこわばりは楽なようです。
冬はマフラー、夏はできるだけ冷房の風が直接当たらない場所へ移動してください。そして、蒸しタオルで温めるときは、熱すぎない温度でお願いします。
目を守る
目が閉じにくい状態が続いていると、乾燥で角膜が傷つきやすくなります。外出時はメガネ、点眼薬は眼科で相談できます。
当院にお越しになった方の経過例
30代女性。発症から1年が経過した時点でお越しになりました。病院ではステロイドやビタミン剤の処方を受け、半年間通院されたとのことでした。
当院にお越しになった時点で、次のような状態でした。
- 口を横に開けると、目が一緒に閉じてしまう(病的共同運動)
- 右目をしっかり閉じることが難しく、まばたきがうまくできない
- 涙が出やすく、車の運転がしにくい
- 食べ物や飲み物がこぼれる
- 鏡を見るたびに、左右の眉の高さの違いが気になる
- 柳原法 16点
1〜8回目(週2回)
目:黒目の見える範囲が少し広がり、「まぶたが上がった感じがする」
口:「口が少し動き出した感じがする」
肩:「肩こりが軽くなりました」
9〜20回目(週2回)
眼:しっかり目を閉じられるようになり、涙が出にくくなった
口:食べ物をこぼすことがなくなった
額:額のしわがくっきり作れるようになった
顔:つっぱり感が気にならなくなった
21〜25回目(週2回)
眉:左右の位置がそろってきた
眼:口を動かした際に見られていた共同運動が、軽くなりました
口:「以前と同じくらい話せる」
柳原法:来院当初より改善が見られました
現在は、人前で話す仕事に復帰されています。体調を崩さないよう、月1回のペースで来院されています。
※経過には、医療機関での治療、時間の経過、ご本人の取り組みなど、複数の要因が関係します。当院の施術のみによる結果ではありません。
こういうときは、すぐ受診をしてください
後遺症とは別の病気が隠れていることがあります。次の場合は、早めの受診をお願いします。
- 顔の麻痺に加えて、腕の動かしにくさや言葉のもつれ ── 脳卒中などの可能性があります。迷わず救急受診をお願いします。
- 目の痛み、強い充血、見えにくさ ── 角膜に傷がついている可能性があります。
- 急にではなく、ゆっくり進行する麻痺/同じ側でくり返す麻痺
- 片側の顔がピクピクとけいれんする ── 後遺症の共同運動とは異なる病態(片側顔面けいれんなど)のことがあります。
当院のアプローチ ―― 顔・脳・心の3つの視点
・顔(解剖学):顔面神経の走行や表情筋の状態を確認しながら、一人ひとりの症状に合わせて施術します。
・脳(神経心理学):脳が自ら神経回路を作り変える力(脳の可塑性)を活かし、自然な表情を取り戻すお手伝いをします。脳卒中後のリハビリにも用いられる考え方です。
・心(東洋医学と心理学):全身のバランスと自律神経を整えながら、神戸大学大学院で修めた心理学の知識を活かし、誰にも言えない不安や焦りにも寄り添います。
※顔面神経麻痺は、まず医療機関で治療を受けることが大切です。そのうえで、回復の段階に合わせて、当院でできることを一緒に考えていきます。
参考資料
- 日本顔面神経学会「顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版(第2版)」金原出版 2023年
- 森嶋直人:末梢性顔面神経麻痺に対するリハビリテーション―急性期・回復期・生活期のリハビリテーション治療―.日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 128巻2号 p.106-112, 2025年
- 藤原圭志:リハビリテーションと後遺症に対する治療.Otology Japan 33巻1号 p.21-25, 2023年
- 羽藤直人・森嶋直人・粕谷大智:顔面神経麻痺診療ガイドライン 2023年版からみる鍼灸の現状と可能性.全日本鍼灸学会雑誌 74巻4号 p.280-292, 2024年
当院の施術例
施術例
過労とストレスが重なった時期に顔面神経麻痺が発症。
過労と強い緊張が重なっていた時期に発症し、耳鼻科での急性期治療を経てご来院。目と口に強い麻痺(柳原法11点)が残り、心身ともに疲労困憊の状態で当院へご相談に来られました。その後、柳原法11点から38点まで回復されました。
来院の経緯
耳鼻科での急性期治療が一段落したタイミングで、当院に来られました。顔面神経麻痺の評価法である柳原法(満点40点)は11点で、目と口にかなり麻痺が残っている状態でした。
口を動かすことが難しかったので、飲食ではかなり苦労されていました。少量を口に含んで麻痺と反対側で噛んだり、ペットボトルで飲むこともできませんでした。
うがいもできずハミガキも困難でした。特に、麻痺側は頬に食べ物が溜まりやすいため、「水圧で洗う口腔洗浄器」を用いていました。
また、右目を閉じることができなかったので、洗顔やシャンプー時の目の痛み、ドライアイにお悩みでした。
発症直前には、子供の病気や親族の介護、新しい仕事で毎日忙しい日々を送り、睡眠不足になっていました。以前から心の不調を抱えて心療内科にも通院されており、日常的に強いストレスと過緊張がありました。
初回来院時のお悩み
- 目と口の動きを早く回復したい
初回来院時の心身の評価
- 心身とも疲労困憊のご様子でした。
- 右閉眼、頬をふくらます、口笛、口をへの字に曲げることができないなど、目と口の動きがほとんどありませんでした。
- 顔面神経麻痺の評価法である柳原法(満点40点)は、11点でした。
- 顔面神経麻痺に関連する生活の質(QOL)を測る「FaCE Scale(フェイス・スケール、満点100点)」は18点でした。
鍼灸施術の経過
施術目的
① 顔面神経と表情筋へのアプローチ
解剖学に基づいて、顔面神経の働きをサポートし表情筋の動きを整えることを目的に、鍼灸施術を行いました。
② 脳の可塑性を活かした機能回復
神経心理学に基づいて、脳が自ら神経回路を作り変える力(脳の可塑性)を引き出し、感覚刺激を通じて顔面の機能回復を促しました。
③ ストレスと自律神経へのアプローチ
顔面神経麻痺は、過労や強い緊張といった長年のストレスによって免疫力が低下し、ウイルスが活性化することが大きな引き金となります1)。
医師からは「ストレスによる免疫力の低下が原因の可能性がある」と言われたそうです。
そのため当院では、ストレスに対する考え方を見直し、自律神経を整えて、睡眠の質を高めることを目的としました。
④ 顔の機能改善と心の回復
また、顔面神経麻痺は、単なる顔の運動障害にとどまらず、強いストレスから「うつ症状」を引き起こしやすいことが報告されています2)。そこで、顔の機能改善だけでなく、「心の回復」までをサポートしました。
1.日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「顔面神経麻痺ってどんな病気?」
2. 藤原 圭志:リハビリテーションと後遺症に対する治療.Otol Jpn 33 (1): 21-25, 2023 年
施術内容
① 解剖学
顔面神経の走行に沿って鍼を行いました。また、口輪筋や眼輪筋など表情筋の動きを細かく確認しながら鍼を行いました。
② 神経心理学
顔面の感覚入力を行いました。
③ 東洋医学
自律神経を整えるため全身に鍼を行いました。
④ カウンセリング
カウンセリングを重視しました。そして、顔面神経麻痺に関連する生活の質(QOL)を測るために、「FaCE Scale(フェイス・スケール)」を用いました。
当院では、顔の動きという「形」の評価だけでなく、患者様が日常生活で感じている「不便さ」や「不安」を客観的に把握するためにFaCE Scaleを活用しています。
1〜8回目(週2回の来院)
口:空気の漏れが少なくなったとのことでした。
「以前より眠れるようになってきました」とのことでした。
9〜16回目(週2回の来院)
目:洗顔の際、目を押さえなくても水が入りにくくなったとのことでした。
口:ハミガキの際、うがいが少しできるようになったとのことでした。
口:食事の際、口の中の食べかすは気にならなくなったとのことでした。
鼻:力が入るようになったとのことでした。
17〜33回目(週2回の来院)
顔面神経麻痺の評価法である柳原法(満点40点):11点から38点まで回復しました。
顔面神経麻痺に関連する生活の質(QOL)を測るFaCE Scale:18点から83点まで回復しました。
目:目を閉じることができるようになったので、シャンプーや洗顔の際、目に水が全く入らなくなったとのことでした。
口:うがいをしても水が漏れなくなったとのことでした。
口:ストローでもペットボトルでも飲めるようになったとのことでした。
顔:発症してから右頬が冷たかったが、左右とも同じくらいの温度になったとのことでした。
「見た目がほとんど気にならなくなって嬉しい」とのことでした。
「大変なことはたくさんあるけど、気づいたら「まあ、いっか」と言っていて、深く考えて落ち込まないようになりました」とのことでした。
※施術の効果や回復には個人差があります。
施術例
3度目の顔面神経麻痺。
柳原法8点からの鍼灸施術例
帯状疱疹後に3度目の顔面神経麻痺を発症。医師から「どこまで回復するか分からない」と言われ、退院後も後遺症に変化が見られない状態でご来院されました。
来院までの経緯
帯状疱疹後に左顔面神経麻痺が発症し、10日間入院。
過去2回は右側の顔面神経麻痺で、ともに帯状疱疹後に発症していました。
医師からは、「ストレスによる免疫力の低下が原因」「3回目なのでどこまで回復するか分からない」と言われたそうです。
退院後1か月以上経っても変化がみられず、「治らないかも」と不安を抱えて来院されました。
初回来院時のお悩み
- 食べ物がこぼれてくる
- ストローで飲めない
- 左の頬が垂れているので、食事の時に歯で頬肉をかんでしまう
- 手で頬肉を持ち上げないと話ができない
- 眼が閉じれないのでシャンプーを流す時、目に水が入る
- 涙がでる
- 左の鼻で息ができない
初回来院時の心身の評価
左の表情筋の筋力がかなり低下しており、額、まぶた、頬の筋肉が垂れ下がり、口は右に引っ張られていました。
強弱の閉眼、片目つぶり、鼻翼をうごかす、口笛、頬をふくらます、イーと歯をみせる、口のへの字にまげる、額のしわ寄せがほぼできませんでした。
顔面神経麻痺の程度を評価する柳原法(満点40)は8点で、重症にちかい状態でした。
めまい、耳鳴りはありませんでした。
東洋医学の体質は「痰湿タイプ」で、水分代謝が悪く、水分が身体に溜まりやすい体質です。
鍼灸施術の経過
初回
「麻痺した顔面神経と萎縮した表情筋の働きをサポートすること」、「自然治癒力を高めて免疫を上げる」ことを目的とした鍼灸施術を行いました。
顔面神経の走行に沿って鍼をしました。
また、顔面部だけでなく腹部のお灸と全身の鍼を行いました。
この時期は真冬で、冷たい風は麻痺を悪化させる要因になり得るので、お顔に風を受けないようにお伝えしました。
3回目の顔面神経麻痺なので、「回復が遅くて、通院回数が増える可能性がある」ということもお伝えしました。
1~15回目(週3回の来院)
※顔面神経麻痺では、一般的に週2回の来院をおすすめしています。今回は重度であったこともあり、ご本人のご希望により、週3回の来院からスタートしました。
神経が少しずつ整ってきたので、筋肉への刺激を意識した鍼を増やしました。
額:眉の上の筋肉が少し動くようになり、シワがうっすらできました。
眼:まぶたの筋肉が少しピクピク動きだしました。
口:頬を挙げる筋肉が動き始めたので、頬の内側の肉が歯に当たらない時がでてきました。
「涙をぬぐう回数が少し減った」とのことです。
不安が強いご様子なので、毎回施術の前後に筋肉の確認を行い少しでも変化がみられたらご報告しました。
16~26回目(週2回の来院)
他の表情筋とくらべて、筋肉の動きが弱い口周囲の鍼を多くしました。
額:眉を上げることができ、左右差がなくなりました。シワもくっきり作れています。
眼:眼を閉じることができるようになり、シャンプーを流す水が目に入らなくなってきたとのことでした。
口:頬周囲がリフトアップされ、手で頬を持ち上げなくても会話ができるようになったとのことでした。
口:口を閉めることができるようになってきたので、飲み物をストローで飲めるようになったとのことでした(ペットボトルはまだできません)。
口:右に寄っていた唇が中心に位置しました。
「だんだん良くなっているのがすごく分かる」とおっしゃられました。
27~37回目(週2回の来院)
頬:頬の筋肉の落ち込みでなくなっていたほうれい線が見えるようになってきました。
鼻:左鼻で息ができるようになりました。
眼:落ち込んでいたまぶたがリフトアップされ、二重が戻ってきました。
眼:涙が少なくなってきたので、車の運転ができるようになったとのことでした。
口:飲み物をペットボトルで飲めるようになったとのことでした。
口:食べ物をこぼさないようになったとのことでした。
柳原法36点まで回復しました。
ご近所の方に、「麻痺が全く分からないね、元に戻ったね」と言われたそうです。
現在
趣味のダンスを再開されました。
ストレスが溜まると再発の可能性があるので、心身のメンテナンスのため月2回のペースで来院されています。
※施術の効果や回復には個人差があります。
施術例
「顔を見られたくない」
1年以上残る顔面神経麻痺の後遺症
「顔を見られたくない」と眼鏡やアイプチで必死に隠す日々に。病院の治療後も長引く顔面神経麻痺の後遺症でご相談に来られました。
来院までの経緯
1年前に右側の顔面神経麻痺を発症し、病院の治療を半年間受けられました。
病院での治療終了後も、お顔の動かしにくさなどの不調が長引いており、当院にご相談にいらっしゃいました。そのため、その後半年間、福岡市の別の施設に通われましたが、症状の変化を感じにくく、当院に来院されました。
右側の口が閉じにくく、滑舌が悪く話しにくさがありました。また、食事の際には、食べ物や飲み物がこぼれやすい状態でした。
また、「口を横に開けると目が勝手に閉じてしまう」といった、意図しない動き(共同運動)も出ていました。
右目をしっかり閉じることが難しく、まばたきがうまくできませんでした。そのため、涙が出やすい状態でした。洗髪の際には、シャンプーが目に入ると痛みがあるため、目元を押さえながら髪を洗っておられました。
特に鏡を見るたびに左右の眉の高さの違いが気になり、外出時は眼鏡とメイクで必死に隠していました。また、元々二重でしたが、一重になって目が小さく見えることも気になり、アイプチも使用されていました。
初回来院時のお悩み
- 眼鏡とマスクをしなければ外出できない
- 案内業務なので、滑舌を良くしたい
- 涙がでるので、車の運転がしにくい
- 食べ物がこぼれるので恥ずかしくて外食できない
- 右側の顔がつっぱる感じがする
初回来院時の心身の評価
「人からどう見られるか」が気になり、顔を見られるのが怖くてたまらないご様子でした。
口と目の共同運動もみられました。
強い閉眼、片目つぶり、口笛、頬をふくらます、口のへの字に曲げるができませんでした。
顔面神経麻痺の評価に用いられる柳原法(満点40)は16点でした。
顔面神経麻痺になってから、肩こりが酷くなりました。
鍼灸施術の経過
施術目的
解剖学に基づいて、顔面神経の働きをサポートし表情筋の動きを整えること。さらに東洋医学的視点から全身を調整して、回復しやすい状態を作ることを目的に、鍼灸施術を行いました。
施術内容
① 顔面神経の走行を意識した鍼灸施術
顔面神経の走行を意識しながら、鍼を行いました。
② 表情筋への鍼灸施術
眼輪筋、口輪筋、頬筋、頬骨筋に萎縮がみられたため、これらの部位に重点的に鍼を行いました。
③ 自律神経を整える全身への鍼灸施術
また、顔面部だけでなく、自律神経を整えるための全身への鍼も行いました。
1〜8回目(週2回の来院)
眼:黒目の見える範囲が少し広がり、「まぶたが上がった感じがする」とのことでした。
口:「口が少し動き出した感じがする」とのことでした。
肩:「肩こりが軽くなりました」。
「施術を重ねる中で変化が実感できた」と話されました。
9〜20回目(週2回の来院)
眼:二重が戻り、黒目の見える範囲も以前と同じくらいになり、「久しぶりにアイプチをしないで外出しました」と笑顔が見られました。
眼:しっかりと目を閉じることができるようになり、涙が出なくなりました。また、シャンプーを流す際も、水が目に入りにくくなりました。
口:食べ物をこぼすことがなくなりました。
口:口をふくらませても、息が漏れなくなりました。
額:額のしわも、くっきり作れるようになりました。
顔:顔のつっぱり感が気にならなくなりました。
21〜25回目(週2回の来院)
眉:左右の眉の位置がそろい、「1年ぶりに眼鏡をかけずに過ごせるようになりました」とのことでした。
眼:口を動かした際にみられていた、目の共同運動が軽くなりました。
口:話しやすさが戻り、「以前と同じくらい話せる」とのことでした。
柳原法は37点まで回復しました。
現在
これまで離れていたアナウンスの業務に復帰することができました。
ストレスの影響で体調を崩さないように、現在も月1回のペースで来院されています。
※施術の効果や回復には個人差があります。
顔まわりの神経症状に対する施術例
施術例
顎変形症手術後に残った
口周りから顎先までのしびれ・感覚麻痺
顎変形症の手術後、鼻の下・唇・顎先にしびれと感覚麻痺が残り、少しでも感覚を取り戻し、口元の動かしにくさを改善したいと鍼灸施術を希望されました。
来院の経緯
30代 女性 福岡県
来院の1か月前、大学病院で顎変形症のため、上顎と下顎の骨を切り、かみ合わせや顔のバランスを整える手術を受けました。
手術直後は口を閉じることができず、よだれが流れ続ける状態でした。手術から1か月後の来院時も、左側の鼻の下から上唇にかけては、まだ思うように動かせない状態でした。
さらに、左側の鼻の下から上唇にかけてと、右側の下唇からオトガイ部(顎先)にかけて、しびれや感覚の麻痺(知覚麻痺)が残りました。これらの部分は、手で触れても分からないほど感覚が低下していました。
鼻水が出たり、鼻の下に食べ物のかすが付いていたりしても、気づかない状態でした。また、唇にはピリピリとした強いしびれがありました。
手術前に医師から、しびれや感覚の麻痺が残る可能性について説明を受けており、そのことを覚悟したうえで手術を受けられました。手術後は大学病院でレーザー治療を受けていましたが、「少しでも回復できれば」と鍼灸施術も希望され、当院に来られました。
※上顎には「Le Fort I型骨切り術」、下顎には「SSRO(下顎枝矢状分割術)」という手術が行われました。どちらも顎の骨を適切な位置へ動かし、固定する手術です。これらの手術では、手術部位周辺の感覚を伝える神経が影響を受け、手術後にしびれや感覚の鈍さが残ることがあります。
初回来院時のお悩み
- 麻痺やしびれが残ることは覚悟しているが、少しでも口周辺の感覚を取り戻したい
- 左側の口元の動かしにくさを改善したい
初回来院時の感覚の状態
- 左側の鼻の下にある溝(人中)から、上唇の左端(口角付近)まで感覚がありませんでした。柔らかいメイク用のブラシや手で皮膚をなぞっても、触れられていることをまったく感じない状態でした。
- 右側の下唇から顎先にかけても同様に、ブラシや手で触れても、触れられていることをまったく感じない状態でした。
- 上唇と下唇の両方にピリピリとした強いしびれがあり、場所によっては、触れてもまったく感じない部分もありました。
※感覚の確認は、柔らかいメイク用ブラシと手で軽く触れ、触れられたことが分かるかを確認する方法で行いました。
鍼灸施術の経過
施術目的
鼻の下や上下の唇、右側の顎先に残るしびれの軽減と感覚の回復、左側の口元の動かしにくさの改善を目指しました。
施術内容
症状が出ている顔の部分だけでなく、東洋医学の考えに基づき、顔まわりの気の流れを整えるために手足にも鍼を行いました。
1〜8回目(2週に1回来院)
大学病院でのレーザー治療と当院での鍼灸施術を、1週間ごとに交互に受ける形で進めました。
これまでまったく感覚がなかった左の口角の少し上に、変化が現れました。軽く触れると、まだはっきりとは分からないものの、「何かが触れている」とぼんやり感じられるようになったとのことでした。
一方、鼻の下の中央にある溝から鼻の穴のすぐ下にかけてと、右側の下唇から顎先にかけては、まだ触れても感覚がない状態でした。
9〜13回目(2週に1回来院)
この頃には、大学病院でのレーザー治療は終了していました。
口元の動きについては、「周囲の人から見ても気づかれない程度まで改善した」と話されていました。ただ、まだ少し違和感が残っていました。
感覚を確認したところ、以前はまったく感じなかった部分でも、軽く触れると「何かが触れている」とぼんやり分かる範囲が広がっていました。特に、右側の下唇から顎先にかけては、全体的に触れられたことが分かるようになっていました。
また、唇のピリピリとしたしびれについても、「以前ほど気にならなくなった」と話されていました。
一方、鼻の穴のすぐ下から、鼻と上唇の間の中央付近までは、軽く触れても、まだ分からない状態でした。
14〜21回目(2週に1回来院)
右側の下唇から顎先にかけてのしびれはなくなり、手やブラシで触れた感覚も分かる状態になりました。ご本人も「感覚が戻った」と話されていました。
医師からは「特に下唇から顎先にかけては、しびれや感覚の麻痺が残りやすい」と説明を受けていたそうです。
上唇と下唇のピリピリとしたしびれもなくなり、感覚が戻りました。鼻の下には、触れられた感覚が少しぼんやりする部分が残っていましたが、「全体的には、もうほとんど気にならない」と話されていました。
手術前から、SNSで同じ手術を受けた方々自身の体験談を数多く読んでおり、しびれや感覚の麻痺が残ったという声も多く目にしていました。
さらに、医師からも、しびれや感覚の麻痺が残る可能性について説明を受けていたため、ご本人も後遺症が残ることを覚悟していたそうです。
それだけに、「後遺症がほとんど残らず、本当にうれしいです」と喜ばれていました。
※本症例では、手術後の自然経過、大学病院でのレーザー治療、当院での鍼灸施術の時期が重なっています。そのため、感覚の変化を鍼灸施術のみの結果と判断することはできません。また、回復の経過には個人差があります。
【このページの作成者】

豊田英一(とよだえいいち)
【国家資格】
・はり師
・きゅう師
・あんまマッサージ指圧師
【学歴】
・神戸大学大学院修士課程修了(心理学専攻)
【認定資格・修了】
・介護予防指導士
・医療リンパドレナージセラピスト
・感覚統合入門講習会応用コース修了
【所属団体】
公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
公益社団法人 福岡県鍼灸マッサージ師会
アクセス
JR福間駅から徒歩15分 駐車場:有り 2台